I. 用語と射程
本節では、リチウム7の不足をエネルギースレッド (Energy Threads) とエネルギーの海 (Energy Sea) の図式で説明します。初期宇宙では、**一般化不安定粒子(GUP)が短い寿命のあいだに重なり合い、背景の地形を形作ります。これを統計テンソル重力(STG)と呼びます。さらに、それらが崩壊・対消滅すると、弱い波束が注がれ、局所的で微細なテクスチャを生みます。これがテンソル背景ノイズ(TBN)です。以降はこれらの日本語名称のみを用います。参照としてビッグバン元素合成(BBN)と宇宙マイクロ波背景(CMB)**にも言及しますが、初出以後は日本語のみで表記します。
II. 観測上のギャップと課題
金属量の少ない古い恒星大気(スパイト台地)で測られるリチウム7は、BBN の標準計算より低い値になりがちです。欠損の大きさはサンプルや補正法によって異なるものの、だいたい「係数1程度」の不足が生じます。一方で、同じ宇宙論と核反応率を用いると、ヘリウム4の質量分率や重水素/水素比は観測とよく整合します。したがって、これらの成功を壊さずにリチウム7だけを下げることは難題です。とくに、
- 恒星表層での消耗仮説は、広範かつ同程度の減少を説明し、同時にリチウム6や鉄などの指標と矛盾しない必要があります。
- 反応断面の精密化は重要ですが、リチウム7だけを単独で観測域へ落とすのは容易ではありません。
- 早期に粒子注入を起こす「新物理」案は、生成物のスペクトル・量・寿命の精密な調整を要し、重水素や CMB スペクトルを乱さない条件が厳しくなります。
III. 物理的メカニズム(「二重補正」:張力の再較正+背景ノイズ注入)
- 張力の再較正:反応の「時計」と冷却の「窓」をそっと合わせ直します。
エネルギーの海が高密な局面では、媒質の張り具合が、微視的反応の進み方と冷却の進み方の相対スケールをわずかに変化させます。実質的には時間軸を均一に少し伸ばす操作です。反応形式や無次元定数自体は変わりません。重要になるのは二つの期間です。第一に、秒スケールの中性子/陽子の凍結期では、ヘリウム4の基準を保つため調整幅は極小でなければなりません。第二に、数百〜数千秒の区間、すなわち重水素のボトルネックが開いてからベリリウム7が作られるまでのあいだです。ここでは冷却テンポと反応の重なり時間にベリリウム7が敏感に反応します。点火・停止のタイミングをわずかに前後させるだけで、最適生成窓が狭まり、正味の生成量が下がります。たとえば、レシピは同じでもオーブンのタイマーを少し動かすと、焼き上がりの「ちょうど良い瞬間」が少しだけずれる、というイメージです。 - 背景ノイズ注入:きわめて稀で短い、選択的な「仕上げの一手」です。
初期の高密環境では、不安定粒子が高頻度で生まれては消えます。崩壊で生じる広帯域で低コヒーレンスな波は、ほとんどが即座に熱化して熱史に吸収されます。それでも統計的には、極めて稀だが適切なタイミングの微小注入が起こり得ます。ベリリウム7が優勢な時期に、ごく少量の中性子、あるいは狭帯域のソフト光子を注げば、ベリリウム7を選択的に壊しやすく、重水素やヘリウム4はほとんど影響を受けません。具体的には、中性子経路(Be-7(n,p)Li-7、続いて Li-7(p,α)He-4)により最終的なリチウム7は減少します。ソフト光子経路では、弱く短い狭帯域スペクトルが Be-7/Li-7 の壊れやすい吸収窓を突き、重水素を「温めすぎる」ことなくベリリウム7を刈り取れます。強度と継続時間は、CMB の μ/y ひずみや軽元素の収支の現行上限を大きく下回る必要があります。全体像を書き換えるのではなく、外科的な微調整にとどめることが肝心です。料理にたとえれば、皿は出来上がっており、盛り付け直前に小さな切れ目を入れて余分なふくらみだけをならす感覚です。 - 相乗効果:まず時計合わせ、ついで軽い後押し。
張力の再較正でベリリウム7の生成窓を狭めたり位置をずらしたりして、基礎的な生成量を落とします。続く背景ノイズ注入が残りのベリリウム7をさらに削ります。結果として、リチウム7は観測帯に収まり、重水素とヘリウム4の整合性は保たれます。
IV. パラメータとガードレール(既存の整合を守るために)
- 秒スケールのタイミング調整は厳しく制限し、ヘリウム4の質量分率を安定させます。
- 注入の時間窓・スペクトル・強度は、重水素破壊のしきい値を回避します。
- 許容される注入は CMB の μ/y ひずみ上限を十分に下回り、痕跡は極めて微弱であるべきです。
- 同位体の副作用として、リチウム6/リチウム7比やヘリウム3に小さな協調的偏差が現れる可能性があります。見つかった場合でも、それは大規模改変ではなく軽いレタッチの証拠であるべきです。
- 無次元定数や相互作用の型は不変です。張力の再較正は、あくまで小さな時間調整に相当します。
V. 検証可能な信号と確認ルート
CMB スペクトルのひずみは「ほぼゼロ」であることが期待されます。より高感度の分光観測が μ/y の上限をさらに引き締めるでしょう。予測される信号は現在のしきい値より下で、ゼロに非常に近いが厳密なゼロではありません。さらに、張力の再較正が主因なら、スパイト台地の値は大規模環境(フィラメント・ノード・ボイド)ごとに、ごく小さい系統差を示す可能性があります。これは大規模サンプルでのみ統計的に検出できます。ベリリウム7破壊の傍証として、リチウム6/リチウム7比やヘリウム3の弱い協調的偏差を探します。その際は、晩期の恒星過程による影響を丁寧に切り分けます。背景ノイズ注入が実際に起きていたなら、その統計的強度は初期宇宙の活動度と弱く共変し、別節で述べる拡散的ベースライン上昇の像と整合します。
VI. 既存アプローチとの関係
粒子注入を主役に据える従来案は、スペクトル・寿命・存在量の微細調整を前提とします。本稿では主役を張力の再較正(タイミング合わせ)が担い、注入は非常に弱い副次効果に退きます。これにより、パラメータの過剰な自由度や微調整への圧力が大きく緩みます。恒星表層での中程度かつ遅い消耗は排除しませんが、唯一の説明として必須ではありません。あるとしても、二重補正を軽く整える役割にとどまります。この枠組みは、核反応率の継続的な精緻化とも両立します。最新の反応データを用いれば、適度な再較正と選択的レタッチの組合せで、他の成功を損なうことなく「しぶといリチウム7過剰」を解消できます。
VII. 比喩
オーブンのタイマー+精密なひと切り。 張力の再較正でタイマーを少しだけ動かし、理想的な膨らみの時間窓をずらします。背景ノイズ注入は盛り付け直前の素早いカットで、リチウム7の余計な峰だけを平らにします。ケーキ本体――ヘリウム4と重水素――はそのままです。
VIII. まとめ
- リチウム7問題は、初期宇宙を全面的に書き換えるのではなく、タイミングと微小注入に対する的確で小さな補正を求めます。
- 張力の再較正は、原初元素合成のオン/オフ周期をわずかに前後させ、リチウム7を供給するベリリウム7経路を優先的に弱めます。
- 適切な瞬間に短時間で選択的に与えるテンソル背景ノイズは、重水素やヘリウム4を乱さずにベリリウム7をさらに減らします。
- 二つの補正を重ねれば、BBN の主な成功を守りつつ検証可能な道筋が開けます。一般化不安定粒子、統計テンソル重力、テンソル背景ノイズを結ぶ因果連鎖とも首尾一貫です。
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推奨表記:著者:「Guanglin Tu」;作品:『Energy Filament Theory』;出典:energyfilament.org;ライセンス:CC BY 4.0。
初公開: 2025-11-11|現行バージョン:v5.1
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