読者へのメモ: 本節は一般読者向けで、数式は扱いません。ここでは**張力回廊導波路(Tension Corridor Waveguide, TCW)**を用いて、直進で狭く速いジェットをどのように説明するかを述べます。定義と形成機構は第1.9節を参照してください。
I. 張力回廊導波路が果たす役割:点火から「直・狭・速」への変換
- 指向を定めます。 エネルギーとプラズマを選好軸に縛り、源近傍での曲がりを抑えます。
- 開口を絞ります。 細い回廊と小さな開口角により、直進かつ高コリメーションの流れを形成します。
- コヒーレンスを保ちます。 秩序だった構造が、パルスの時間的・偏光的な整合を保持し、乱流による急速な洗い流しを防ぎます。
- 到達距離を延ばします。 外圧と「支え壁」の後押しで直進・高コリメーション状態が長距離で維持され、より透明で放射効率の高い領域までエネルギーを護送します。
要するに、張力回廊導波路はコリメータとして働き、源の点火を確実に直・狭・速のジェットへと届けます。
II. 応用の全体像:「TCW → ジェット」という共通パイプライン
- 点火。 源近傍の薄いせん断–再結合層がパルス状にエネルギーを放出します。
- 護送。 張力回廊導波路が、再吸収や曲がりを避けつつ、エネルギーを近傍から中距離へと運びます。
- ギアシフト。 バーストの進行に伴い、幾何と秩序が段階的に切り替わる場合があります(偏光角の離散ジャンプとして観測)。
- フリーラン。 強いコリメーション域を出ると、ジェットは広がった伝播とアフターグロー段階に入り、再コリメーションの結節や幾何学的な断裂が現れがちです。
III. 系ごとのマッピング:どこでTCWが効き、何を観るか
- ガンマ線バースト(GRB)
- 直・狭の理由。 崩壊/合体がスピン軸に沿って安定な回廊を開き、最も明るいプロンプト部分をより透明な半径まで「直送」します。近傍での相殺や曲がりが抑えられます。
- 源近傍スケール。 約0.5〜50 au。サブ秒ピークでも直・狭を維持します。
- 観測の鍵。 立ち上がりで偏光が先に上がり、隣接パルス間で偏光角が段階的に切り替わります。アフターグローには2段以上の無色断裂が並び、回廊の層やギアシフトを反映します。
- 活動銀河核(AGN)・マイクロクエーサー
- 直・狭の理由。 事象の地平面付近からサブパーセクまで長く安定した回廊が続き、放物形のコリメーション域から円錐形の拡大域へ移行します。
- 源近傍スケール。 約10^3〜10^6 au(中央質量が大きいほど長い)。
- 観測の鍵。 スパイン–シースの二層構造とエッジ増光、距離とともに開口が放物形から円錐形へ遷移、年スケールで偏光パターンが再編・反転(回廊のギアシフトの巨視的表れ)。
- 潮汐破壊イベント(TDE)のジェット
- 直・狭の理由。 恒星が引き裂かれた直後、スピン軸付近に短命ながら効率的な回廊が素早く形成され、初期流が強くコリメートされます。
- 源近傍スケール。 約1〜300 au。降着や外圧が落ちると回廊は緩み、時に消失します。
- 観測の鍵。 初期は偏光が高く安定し、その後急降下や反転。視線がオフ軸なら、光度曲線とスペクトルに明瞭な向き替えが生じます。
- 高速電波バースト(FRB)
- 直・狭の理由。 マグネター近傍の極短い回廊セグメントが、コヒーレントな電波を極細ビームに圧縮し、ミリ秒スケールで「直撃」します。
- 源近傍スケール。 約0.001〜0.1 au。
- 観測の鍵。 ほぼ純粋な直線偏光、**回転測度(RM)**の階段状変化、繰り返し源ではバースト間で偏光角が「段切り」切替。
- 低速ジェットとその他(原始星ジェット、パルサー風星雲)
- 直・狭の理由。 相対論的でなくても回廊幾何が効きます。源近傍の直線区間が向きを定め、その後は環境圧や円盤風が見え方を主導します。
- 源近傍スケール。 原始星ジェットで10〜100 auの直線区間、パルサー風星雲では極側に短い直通路、赤道側に環状構造。
- 観測の鍵。 柱状コリメーションと結節での収縮–反発痕(再コリメーション)、宿主媒質のフィラメントと整列する向きの偏り。
IV. TCW応用の指紋(J1–J6:本節の観測チェック)
以下は回廊駆動の直進ジェットを見極める指標で、第3.10節のP1–P6を補完します。
- J1|偏光が光度に先行。 1つのパルス内で、立ち上がりに偏光が先に上がり、その後に光度がピークになります(先にコヒーレンス、次にエネルギー)。
- J2|偏光角の段切りジャンプ。 隣接パルス間で偏光角が離散的に切替わり、回廊ユニットの交替やギアシフトを示します。
- J3|回転測度の階段。 立ち上がり/プロンプト期にRMが段階的に変化し、パルス境界や偏光角ジャンプと整列します。
- J4|多段の幾何断裂。 アフターグローに少なくとも2段の無色断裂が現れ、時刻比がサンプル内でクラスタします(回廊の層状幾何)。
- J5|スパイン–シースとエッジ増光。 画像で、中心の速いスパインと外側の遅いシースが分かれ、縁の明るさが際立ちます。
- J6|「過透明」方向の整合。 高エネルギー光子が通りやすい方向が、宿主のフィラメント長軸や主要せん断軸と統計的に一致します。
判断の目安: 一件(またはクラス)がJ1–J4の少なくとも2項目を満たし、かつ形態がJ5/J6を支持するなら、回廊駆動の直進ジェット解釈が非チャネル型より有力です。
V. 多層モデル(現代表象との役割分担)
- 基底層:張力回廊導波路からの幾何プリオリ。
コリメータ的ふるまい、層ごとのギアシフト、偏光角の離散化、RMの階段、多段幾何断裂を説明し、長さ・開口・層位・切替時期のプリオリを与えます。 - 中間層:従来のジェット力学とMHD。
幾何プリオリに基づき速度場・エネルギー輸送・横圧結合を計算し、放物形から円錐形への遷移と安定性を扱います。 - 上位層:放射と伝播。
標準的な放射・伝達理論でスペクトル、光度曲線、偏光、RMを合成し、宇宙大規模構造に沿った再処理をモデル化します。 - 推奨ワークフロー。
まずJ1–J6で回廊駆動の直進ジェットの有無をスクリーニングし、該当ケースを力学・放射モジュールへ渡して精密フィットと解釈を行います。
VI. 要するに
- 働きの落とし所。 張力回廊導波路は点火を直・狭・速のジェットへ護送し、J1–J6で成否を直接点検できます。
- 源をまたぐ統一。 GRB、AGN、TDEジェット、FRB、低速ジェットまで、共通の回廊幾何が「なぜ直進するのか」を説明します。
- 協調モデリング。 回廊プリオリで幾何を拘束し、従来の力学と放射を重ねることで、形態・位相・スペクトル・偏光をひとつの検証可能な説明連鎖に結びます。
著作権・ライセンス(CC BY 4.0)
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推奨表記:著者:「Guanglin Tu」;作品:『Energy Filament Theory』;出典:energyfilament.org;ライセンス:CC BY 4.0。
初公開: 2025-11-11|現行バージョン:v5.1
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