用語と範囲
本節では、糸・海・張力の像で初期状態とその「開放」を説明します。最初期には、寿命が極端に短い秩序立った擾乱が**一般化不安定粒子(GUP)として多数生じました。寿命の総和は媒質を引き締め、時空平均で内向きの基盤となる統計テンソル重力(STG)を敷きました。崩壊・消滅に伴う弱い波束の還流は重なってテンソル背景雑音(TBN)**の拡散的な下地を成します。以下、これらの日本語の完全表記を初出で示し、その後は同一表記で用います。
I. 「はじまり」を書き換える理由(現象と行き詰まり)
特異点への単純延長は密度と温度を「無限大」へ追い込みますが、単位は残っても尺度が壊れます。これは数学的発散であって、物理的な相ではありません。さらに、最古の「プレート」— 音響位相とほぼ等温の底色 — は驚くほど整っています。単一の速度上限と通常の因果だけでは、遠隔領域がこれほど迅速に協調した理由を説明しにくいのです。「最初から高温」のエネルギー帳尻も合いません。時間を既知の座標とみなせば「その前の前」が無限に遡り、そもそも時間が操作可能だったかを確かめる必要が生じます。したがって、出発点は「零点/無限大」ではなく、実在する相とその相転移として記述するのが妥当です。
II. 時間のない始源:クォジ真空核
粒子と時計が現れる前には、糸ネットワークの連続状態のみがありました。自立する束縛構造が無いため、安定振動子も「秒」も定義できません。張力は上限まで引き上げられ、局所の伝播上限は極端に高い状態でした。しかし上限が高くても、それだけで時間は生まれません。振動子がなければ周期も拍もありません。結合関係は全域ロック(入口あり・出口なし)を作り、擾乱を「内側」に閉じ込め、外部参照を失わせます。粒子や周期過程が無い限り、「前/後」は操作的な意味を持ちません。
III. 臨界をまたぐ:ロックから開放へ(時間が点灯するまで)
粒子が無くても、短命の秩序擾乱は極高頻度で現れて二つの推力を供給します。
- 統計テンソル重力:存続中は内向きに滑らかに締め付け、ロックされた核を圧実化します。
- テンソル背景雑音:崩壊時に不規則な波束が結合を小突き、ミクロなトリガと微小再配線を与えます。
内向きの締め付けとミクロトリガが応力を閾値の先へ押し出すと、再結合の連鎖が始まりネットワークを解錠します。広い領域が断接再結を繰り返し、自発的に通過可能な張力コリドーを形成。ロックは通行へと転じ、「内—外」の因果が復活します。遷移帯はピストンのように張力を放出します。まず全体のエネルギー段が揃って跳ね上がり(共通ステップ)、ついで強→弱・間隔伸長のエコー包絡で減衰し、貯蔵張力を伝播エネルギーと近傍プラズマに変換します。安定な局所構造と反復可能な過程(階層ループ、音響の往復)が現れれば、数えられる拍が生まれ、時間が点灯します。
IV. インフレーションなしの協調:開放が与えるもの
相転移は伝播上限が極めて高い背景で起こります。加えて、ネットワークはブロック的な描き替え(大域が同時に配線変更)を行えます。結果として、広大な領域が極短時間で同期でき、位相整合と準等温が幾何学的膨張なしに成立します。エネルギーの勘定も合います。再結合の連鎖が張力ストレスを擾乱に変え、近傍で素早く熱化して初期の熱を満たします。ここで「上限」と「時計」は別物です。張力は上限を定め(初期は極端に高い)、時計は振動子を要します(開放後に成立)。開放は両者を同時に与え、迅速な協調を計時可能な進化に書き込みます。
V. フリーズインと開幕
「新常態」— 依然として高密・高張 — では、フォトン・バリオン流体が圧縮—反発の音響 regime に入り、共鳴拍とコヒーレントな尺度(音響定規)を築きます。衝突が減ると光子はデカップリングし、校正されたばかりのプレート—黒体の底、ピーク—トラフの律動、先導する偏光の主模様—を今日の**宇宙マイクロ波背景(CMB)**へ運びます。以後は張力地形が物質を組織し、長斜面が輸送し、稜線が束ね、ノードが閉じ、ボイドが反発して、宇宙網の骨格が立ち上がります。
VI. 「その前の前」はなぜ疑似問題か
ロック状態には時間がありません。「その前」を問うのは、凝固点以下の液体の流速を問うのに等しいのです。全域ロック・極高張力・再結合連鎖は、私たちから見える前相の記憶を消し去ります。開放の最中に外向き経路はなく、高周波の再結合がミクロな模様を無名のマクロ量(全応力、エネルギー密度など)へ撹拌し、さらに閾値の両側で計量と観測量は互換性を欠きます。仮に「外部」に何かがあっても、私たちの帳簿には到達しません。観測可能な歴史は開放から再起動します。
VII. 四つの勘定(クォジ真空核に畳み込む)
- 糸(物質):まだ粒子ではない連続ネット。自立巻き(粒子)や階層ループは解錠後に現れます。
- 海(媒質):動作域の極限まで張られる。開放後は可逆弾性へ戻り、音響・輸送・定着が可能になります。
- 密(荷重):初期は極めて高く、張力とループを受け止める。開放後は張力地形に沿って再配分され、階層構造へ流れ込みます。
- 張(牽引/上限/拍):最初は上限のみで拍を与えず、開放後に拍を灯し、上限を整え、経路を刻み、歴史の主勘定になります。
VIII. たとえ
過加圧の太鼓の皮とピストン弁。放気前は皮が極限まで張り、時計は無意味です。弁が閾値を越えて開くと、鍋全体が一段上がり(共通ステップ)、余韻が減衰しながら響きます。蓄えたエネルギーは熱と波に変わり、そこから時間計測が始まります。
IX. 標準像との対照
- 特異点: 「無限大/無限小」の代わりに「張力制限のクォジ真空核+相転移の開放」を置きます。単位は保たれ、スケールは開放前に壊れ、開放後に復帰します。
- インフレーション: 幾何を急伸させる代わりに、「高張力期の高い伝播上限+ブロック描き替え」で先に整列させ、ピストン型の再加熱でエネルギーを移し位相を書き込みます。外部の駆動場や特別な退出脚本は不要です。
- ブラックホール内部との類比: 共通点はロックと極高張力。相違は、ここでは外参照のない全域ロックであり、開放は穴からの脱出ではなく結合を書き換えて計量の操作性を取り戻す点です。
X. 検証できる手がかり
- J1|音響の「共通ステップ+エコー包絡」:スケールとともに減衰する超微弱の対数間隔モジュレーションが TT/EE に許容され、位相は整うが現行上限の下に留まります。
- J2|超大角での無色偏位:ブロック描き替えと経路項が、最大角で温度/位相の微小オフセットを残し、収束マップと弱く相関します。
- J3|早期ガイダンスの「記憶」:弱重力レンズ・宇宙せん断・BAO を合同再構成したとき、より平滑な初期張力ベースマップが復元され、各プローブの残差が同時に下がるはずです。
- J4|スペクトル微歪の極低上限:穏やかなエネルギー移送なら μ/y 歪はゼロではないが現行上限未満。高感度の分光でさらに絞るか検出できます。
XI. 結論
- 初期状態:張力予算が天井に達した、全域ロックのクォジ真空核—粒子も時計もなく、操作可能な時間もない。
- トリガ:蓄積応力とミクロトリガが閾値を越え、遷移帯がピストンのように開きます。時間が点灯し、高い上限を保ったまま位相協調が素早く整い、蓄蔵張力が初期熱に転じます。
- 定着:音響期が拍を刻み、デカップリングがプレートを私たちへ渡します。その後、張力地形が宇宙網を彫り、歴史は追跡可能になります。
- 「前」について:時間が成立しない相では「前/後」に意味はありません。仮に前相があっても、その情報は私たちにとって消去されています。観測可能な宇宙の始まりは開放です。
要するに、宇宙は無から飛び出したのではありません。張力に制限された全域ロックのクォジ真空核から臨界を越えて開放されました。張力が上限を定め、相転移が拍を灯し、貯蔵エネルギーが熱を満たし、ネットワークが協調を刻む。その後、宇宙は張力が導く地形に沿って、今日の多様さへ展開していきます。
著作権・ライセンス(CC BY 4.0)
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推奨表記:著者:「Guanglin Tu」;作品:『Energy Filament Theory』;出典:energyfilament.org;ライセンス:CC BY 4.0。
初公開: 2025-11-11|現行バージョン:v5.1
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